春の陽気が感じられる桜の季節。
僕はとある居酒屋でボストロールと対峙していた。
引用元:http://ownpace.net/dqx/2014/10/12/toubatu-47/
見るからに巨大な女性。
ふくよかという言葉は使えない。巨躯という言葉がよく似合う女性である。
ときおり笑ったときには顔から消えるほど小さい目。
女性とは思えぬドラえもんのような顔の大きさ。
ゆとりのあるサカゼンサイズの服。
椅子から体が大きくはみ出しているのも愛嬌の一つだろう。
こんな絶望の状況でも女性と楽しく話すコツは心得ている。
それは、相手のいい部分を見ることだ。
太っている点も見方を変えれば、好印象なポイントになり得る。
旧世紀以前は太っていることが裕福な証拠であったし、太っていることは満足な食事を食べている何よりの根拠である。
多角的な視点を持つことで、『デブ』という一見短所に見える部分も長所になりうるのだ。
目の前の脂肪を無くすことはできないが、自分の解釈によって意味づけを変えることができる。
だが・・・いくら意味づけを変えたとしても、その肥えた脂肪が好印象に映ることはなかった。
「もうそんなに見ないでよ笑」
ボストロールが人語を発した。
これが口説きたい女だったら好ましい反応である。
この言葉に対する切り返しは「目綺麗だなと思って、見ちゃったよ」で決まる。
だが目の前は口説きたいどころか、一刻も早く駆逐したい相手。
意図せず喉から反射的に出てきたのは
「見てるつもりなかったけど、、、」
脳が、体が拒否反応を示して伝えた言葉だった。
目の前の物体が好意な眼差しでこちらを見ている。
目を一切合わせず僕は、手元に置かれたオリオンビールをゴクリと喉に流し込んだ。
決まった出会いの場
某日。
仕事をしていたときに高校の友人から連絡がきた。
合コンをやるけど人数が足りないから、来れないかとのこと。
久しぶりに会う友達からこんな誘いがくるのなんて珍しい。
当然ナンパをやっている身からすると出会いなんて必要ない。
しかし彼女のいない友人の願いもあり、仲のいい同級生の彼女を作るべく参戦することにした。
場所は都内某所。
比較的大人の街で開催されることになった。
今回僕は盛り上げ役。
そして友人の彼女を作るべく完全アシストに回る所存だ。
狙うのはチームの勝利。
僕個人の性欲を満たすためには戦ってはいけない。
だが
「当日可愛い子ばっかだったらどうしよう、アシストも大事だけど俺も抱きに行こw」
この時はそんなよこしまな思いもまだあった。
合コン当日
今回の合コンは3対3。
メンバーは僕と友人、友人が街コンで出会った男だ。
打ち合わせもかねてHUBで飲んでから行くことにした。
そこで初めて主催の彼と挨拶をする。
比較的真面目そうな彼だが彼女はいるらしい。どことなく非モテ感が漂う見た目。
今回の合コンに関して、僕は一切干渉しないつもりである。
ナンパ師が合コンを開くとだいたい流れが決まっている。
各々の即(セックス)を求めるために最前の動きをするからだ。
居酒屋選びから座り方、会話、セパレートなど。全て各人がセックスを主目的に考えしまう。
良くも悪くも彼女作りには向かない。
だが今回はあくまでも友人の彼女作り。
そのため下手に僕が干渉しないことにした。
ナンパ師的にはこの場で合コンの流れなどを話すが、HUBでは仲良く話して親交を深めた。
合コンの場に行った際に、あまり仲が良くないと話も盛り上がらない。
久しぶりの話にも花が咲き盛り上がってきたところで時間も迫っていたため合コンの場所に移動。
時間は少しだけ遅れてしまった。
すでに彼女達は着いているようだ。
合コンは沖縄系の居酒屋。
食べログのレビューでは高評価。値段もそこそこするが食事は期待できそうである。
居酒屋に到着し3階建ての階段を登り店を開ける。
ドアを開けて彼女らが座っている席を確認すると女の子が1人座っていた。
女の子は1人だけだった。
せっかくの合コンで女の子も遅刻かと。
やれやれ。やる気のなさが伺える。
席へ向かうと女の子は1人いるが、その隣にも”笑顔の何か”が見えた。
いや違う。
本当は最初から見えていた。
遠目からでも理解できるほどの存在感。
食欲を制することができず、貪るがままに食物を消化してきた成れの果て。
食欲の魔神。豪食の神。強欲の肉体。
『デブ』だ。
推定100キロ近く。もしもこれがマグロであれば、すしざんまいが喉から手が出るほど欲しがる大物。
嘘であってくれ。
そんな思いが『デブ』の存在を無いものにしていた。
だが現実は時として小説より残酷だ。
彼女2人はまごうことなくこの場に存在している。
そして僕ら3人を待ち構えていたのである。
隣の友人達も戸惑っている。
「どこの席に座ればいいんだ。できればあの前だけは避けたい・・・」そんな声が伝わってくるようだった。
無論、今日は僕がアシストに徹するのは友人から連絡がきた時点で決まっていた。
僕は一直線に、迷わずデブの前に座った。
迷うことなき僕の行動に感化されオロオロしていた友人達もやっと席に着いた。
彼女達は2人。もう1人は遅れてくるらしい。
今の状況を確認する。
女 デブ
友 男 僕
の状況だ。
合コンはもうすでに始まっている。
ここから引き返すことはできない。
一度走り出した列車は次の駅に止まるまで歩みを止められない。
合コンも一度始まれば、終点まで歩むしかないのだ。
さてここからが難題だ。
積極的に僕がここで話を開始しても良かったが、今回は幹事が真ん中の男性。
僕がしゃしゃり出る訳にはいかない。
だが彼が冒頭で話し出したのは友人と僕。
目の前の女性と話そうとしない。
理解できる。
可愛い女性との合コンを妄想していた最中、女の子とボストロールが現れたのであれば脳は混乱を起こす。
だがどんなに絶望の状況下であっても、戦局を不利にしてはいけない。
仕方なく僕が彼女らに話を振った。
年齢は20代中盤。趣味は〜〜など自己紹介が始まった。
ようやく話が始まり男達も話に入り出す。
「最近は出会いあったん?」
と、全体の話が盛り上がってきたタイミングでボストロールの注意をこちらに向ける。
唯一の女の子は友人達と話し始めた。
こいつは僕が全力で引き受ける。
ダムが決壊するかのごとく彼女の口から最近の出会い状況が話し始められた。
しばらく話しているともう1人の女性がやっとくるとのこと。
今から来る女性は友人の前に座る。
少しでも可愛い子がくればいいのだが油断は禁物だ。
期待をすればするほど、酷い場合の落胆が大きい。
読者にも小学生や中学生の時にも同じようなことがあったと思う。
転校生がくるときは必ず話に尾ひれがつく。
可愛い子がくる。イケメンな男子だよ。など。
でも実際は予想を必ず反する。事実は小説より奇なり。
事実は噂よりも奇なりだ。
僕の小学校時代にも同じようなことがあった。
可愛い子がくる。学年中がその話題で盛り上がっていた。
今度の転校生は東京からくる。
『東京』
田舎では東京との名がつけば話題が豊富に出てくる。
その東京から可愛い子が田舎の学校にやってくると男子達の間では噂になっていた。
当然僕も華やかな恋愛を夢見た。
転校生がやってきて、なぜか僕が以前会ったことがあり、初日から僕と仲良くなり他の男にいじわるされながらも盛大な恋愛を遂げる。
ガキの妄想はいつの時代も無限大だ。
だが、この時も僕の妄想は鉄球をぶつけられたガラスのように粉々と無残に砕け散った。
転校生は普通だった。可もなく不可もない普通の女子であった。
だが紹介の挨拶をした時に笑った顔が、
バイオハザードのネメシスだったのだ。
歯茎が露出してしまう女子である。
今後男子の間で彼女のあだ名がネメシスとなったのはここだけの話である。
僕の思い描いていた学園恋愛ゲームは突如ホラーゲームのラスボス戦となってしまった。
理想
引用元:https://twilab.org/item/1022740174986346496
↓↓
現実
引用元:https://biohazard-matomelabo.com/archives/583
さて話を合コンに戻そう。
予想に反してだが、今回の合コンも大幅に期待を裏切られた。
大柄でチャーシューのようにタイトな服を纏った女性が店内に入ってきた。
願う男性陣。
あいつじゃないと言ってくれ。そのままこの席をスルーしてくれ。
だが現実は無情である。
「あ、〇〇!こっち!」
「あ、いたいた。おまたせしました〜」
ボストロールがピンチの時に仲間を呼ぶように、店内に現れた女性もこちらに引き寄せられてきた。
引用元:http://hoshino-dq.com/bosskouryaku/bosstroll.php
友達の前にどかっっと座る。友達から笑顔がすっーと引いていくのがわかった。
まるでドラクエの囚われし姫を助け出すシーンのようだ。
僕ら3人で戦える敵なのか?
だが僕が今回やるべきことは決まっている。
どんな街で生まれようと、勇者が魔王を倒すことが決まっているように。
やるべきことは彼女を求める友人に、真ん中の女子を口説けるように全力でアシストすること。
これが使命だ。
目的が見えたらやるべきことは単純。
ひとまず先ほど運ばれたきた食事を食べながら話を盛り上げよう。
そう思い目の前の食事を見たが、僕は迂闊だった。
なぜ今になって食事にありつこうと考えたのか。
現代は飽食の時代。食べ物を探そうと思えばいくらでも手に入る。
だが、ここは常識が通用する場所か?
否、ボストロールが2体現れた時点で常識は崩壊している。
ならなぜそれを最初に理解していなかったのだ。
完全なる自分の不覚に他ならない。
つまり、先ほど運ばれた肉が跡形もなく消えていたのだ・・・。
沖縄名物のラフテー。この料理屋に入り、メニューを見た時にワクワクと楽しみにしていた料理の一つだ。
だが僕の前にはラフテーの残骸が残っているだけだった。
明瞭にいえば、食い荒らされてしまったのだ。
合コンという出会いの場においてとどまることを知らない食欲。
肉の残骸を仕方なく拾い自分のさらによそう。
残骸しかすすれない悔しさが、僕の怒りのロウソクに火を灯した。
だがここで感情をあらわにしては、場は破綻する。
もしも僕が
「ラフテーみたいな奴がラフテー食ったら共食いもいいところだ!返せ俺のラフテー」などと発言してしまえば彼女らの怒りの炎を灯すことになる。
ナンパ師はこんなことではへこたれない。
話を強引に始める。
彼女達の話を引き出しながら、いつも通りいじったりしながら言い合える関係を構築していく。
意思疎通を上手く図りながら引き出していくと、旅行の話になった。
ここら辺を境に僕の記憶が酒により確かではなくなってきていた。
だが、この話でボストロールが発した言葉は脳裏に刻まれ覚えている。
忘れたくても忘れることができない。
大きな口を開けながらも小さな声で、
「でも、フェラしちゃった・・笑」と。
胃の中からこみ上げる海ぶどう。吐き気が誘発されたのは酒を飲みすぎたからか。
違う。
訪れる嘔吐は、その悪魔の一言により脳が想像してしまったからだ。
デブの余りある脂肪が揺れ、デブが男のちんこを貪り咥える姿を。
最も想像してはいけない物を想像してしまった。
海ぶどうが胃から這い上がる寸土のところで妄想をかき消す。
死の呪文ザラキを予告もなく発動してきた。
そしてフェラ発言をしてから隣の男が話に入ってきた。
「ええ、フェラってどういうこと〜?」
ゲスい言い方だ。
落ち着きを戻すべく手元のレモンサワーをこれでもかと流し込んだ。
当然ゲスい言い方で突然入ればその会話は繋がらない。
予想通り話はそこで終わってしまった。
男がその話を深掘りしていたら、もっとえげつない話が出てきそうであり僕は崩れ落ちたかもしれなかった。
ほどなくして時間も頃合いを迎えた。
ボストロールは僕が担当し、友人は女の子とも会話ができていた。
・・・全てこれでよかったのだ。
僕は友人に彼女を作るその使命感で会話を始めていた。
この合コンも同じ。僕が引き受けなければいけなかったのだ。
使命感に駆られた行動というものもいい。
自分しかできない。そんな感情が人を行動的にさせる。
君だけしかできないんだ。この言葉は時として一般市民を英雄に変える力を持つ。
そして合コンは終了した。破廉恥な発言もあったが全て丸く収まった。
居酒屋を退店し駅まで仲良く6人で歩く。
駅から徒歩2分の居酒屋。
駅までの間、最後にはしおらしくなった巨体の女性2人と僕が一緒に歩いた。
唯一の女の子は友人と男が挟み合うように歩いている。
そのまま駅へ。
僕がやることは1週間前から決まっていたのだ。
自分が前に出ることなく常に友の勝利を担う。
太った彼女らの手を引いた。
「さあ、僕らは帰ろう」と。
男2人と女の子を1人残し、僕はトロールに囲まれて連れ去られる獲物のように駅の改札へ誘導されていったのである。
後日談
友人がいい感じになったが、幹事の男が帰らず結局始発まで3人で飲んで終わったらしい。
僕があそこまで気を利かせた時間をマジで返して欲しい。
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